怒りの矛先

昨今の日本は地震や豪雨による災害が多い。
昔はこんなに毎年のように、死傷者を出すような災害は多くなかった。
それだけに、そうした災害の報道もあっという間に減って行く。
北海道の地震で液状化した地域はどうなったろうか。
岡山の水害で水没した家々はどうなっただろうか。
ネットがあるので情報を集めようとすれば集められるのだが、集めたところで何もできないので検索しない。そういう人が殆どだろう。

先日、というか何週間か前のことだけど、気になった報道があった。
なかなか忘れられないので文字にしようと思った次第。

とある被災地での自治体から住民への説明会。
今後、役所ではこうした対策を打っていく、という説明のはずが、なかなかはっきりした話が出てこない。
業を煮やした住民から出される怒りの声。
このままだと暮らせない、どうしろというのだ、と。
ボクには詳しい状況は解りません。それだけ役所が怠惰な仕事をしているのか、対応しきれないだけなのか。
ただ、被災者の方々に言いたいのは、役所を責めないでやってほしいということ。

東日本大震災の数日後、ボクはちょっとつきあいのあった区役所の係長を訪ねた。
仕事が止まっているので時間がある。なにか手伝えることがあればという話をしに行った。
しかし、いろいろ出てくるだろうが、その時点ではまだ具体的にお願いできる事柄がないとのことだった。役所もパニックになっているようだった。でも何か出て来たらお願いしたいという話とともに、係長はこう言った。
「私たちはね、こういう事態に慣れてないんですよ」
普段、何事もないように、これはこういう問題が起こるんじゃないか、というようなチェックばかりをしていると、イレギュラーに対応する脳の仕組みになっていない、という。

その後、その区でも津波被害があったので仮設住宅が建てられた。
しかし、その仮設住宅の担当者はわずか一人。何かあれば応援を頼むという態勢。
仮設住宅からはいろいろな依頼や苦情がくる。
寒いだの、暑いだの、何々が壊れたから交換しろ。
人手不足だから時間がかかる。そうするとそれが苦情になる。
そして最後にはこう言われる。
「税金払ってるんだぞ」

人は文句が言いやすいところに文句を言う。
そして持ち上げやすい人を持ち上げる。
それは昨今のメディアがさらにそういう風潮を強めているように思う。
インターネットの存在がそれをさらに増幅する。
役所は責めて良い、ボランティアは持ち上げて良い。
ボクも東日本大震災の時にはボランティアと呼ばれるようなことをしたが、それは結局自分のためだ。話せば長くなるので書かないが。
ボクが被災地で出会ったボランティアの人たちも、その多くが自分のためだった。
役所の人は、災害時には自分のことを置いておいてでも住民のことを優先させなければならない。
もしかしたらボランティアより大変なんじゃないのか。

まぁ、つまり、役所も被災者なのだ。
お互いに思いやりを持って前に進んでほしい、ということが言いたかった。
怒りの矛先を、向けやすいところに向けても、当て所ない怒りは治るはずもない。

ちなみに、ついでだから書いちゃうけど、仮設住宅に関わった役所の人は大変だったろうなと本当に思う。
とあるボランティア団体のシンポジウムで、おばあさんが住んでいる仮設住宅の玄関ベルが壊れていたので、役所にクレームを入れてすぐに交換させた、ということを自慢気に話すNPOの代表がいた。
思わず「自分で交換してやりゃぁいいじゃねえか」と言いそうになった。
住民からのクレームも多かったそうだ。
こんなところ人が住むところじゃないなんて言っている人もいたが、3人以上の家族で3Kの部屋。ボクが中学生の時まで家族4人で住んでいたところより広いし設備も良い。
でも中にはこんな人もいた。石巻の復興市場で出会ったおばさん。

みんなね、ああだこうだと文句ばかり言うけど、私はありがたいと思ってるよ。
住む場所を用意してもらってね、テレビや冷蔵庫やエアコンまである。それにね、爪切りまで。暮らすために必要なものは全部揃ってるんだよ。これで文句言ってたらバチが当たるよ。

ボクは被災地であった人の中で、名前も知らないあのおばさんだけは忘れない。
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震災から1ヶ月後の女川町。
全体に飛んでいるのは、あまりの光景に露出を合わせるのを忘れてシャッターを切ったから。
でもそのおかげか、この写真を見るとあの日の強い日差しが思い出される。

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Commented by tabilogue2 at 2018-10-20 20:35 x
いやあ 初カキコです で、この記事を選んだって・・・ワケはたくさんあるんですけど、似たよな思いがあって書きます(>_<)

福島県南相馬市になるのかな?鹿島町に車仲間の友がいました。彼は相馬あたりのクルマ好き仲間の一人ですが、いっぽう南相馬市の職員でした。
もう震災後はすべてが残務で24時間出動だったようです。で、丸森町に多くの被災者が移動して住んで 南相馬の自宅と丸森町の仮設とをほぼ往復の日々。で そのご数年 昨年までは車仲間の集まりに来ていたのですが 今じゃもうすっかり車趣味をやめてしまって 役所仕事もやめてしまって ノイローゼになったと同じ仲間から聞き及びました。 
あれしろ これしろ 様々な要求への対処の日々 ご苦労だったと思います。役場の職員も同じ被災者なのに 顔には出せませんからぐっと堪えていたんでしょう。とうとう役所に対する風当たりの強さに耐えられなかったようです。

僕も被災地支援で特に野蒜地区を回っていました。冷凍ではなく生鮮食料を月2回、150世帯に配布するんですが 全国の知り合いから定期的に魚と野菜を集荷するルートを作って、一斉にバンに積んで配布するんですけど・・・ 生の生活実態を垣間見させて頂けただけでも 勉強になりました。

役所だからって 「それっ! クレーム入れろ」 ってなわけには行かんですよね。勝手なことをネットで書いて クレームだなんて 震災後 そうそう易々とは言えなくなりました。
Commented by toto4543 at 2018-10-20 21:26
> tabilogue2さん
よこうそ。
そのご友人こそ被災者だと思います。しかし、それは防げたはずなんですよね。住民からの攻撃がなければ。激務でも感謝されていれば続けられたんじゃないかと思ってしまいます。本当にこういう話は残念でなりません。被災地にとっても大きな損失で、なぜそれが住民たちはわからないのか。一時の気持ちのぶつけどころにすることで、結果的には自分達の不利益になってしまうのに。
とにかく、昨今は権利ばかりを主張する風潮があるように思います。自分で立っていない人が多すぎるような。

支援で野蒜を回ってたんですね。ご苦労様でした。生活実態を見たとなると、思うことも多かったと思います。
by toto4543 | 2018-10-20 12:17 | ニュースに思う | Comments(2)